(歩きながら)
ハル 「………あ、もうこんな時間…、(腕時計見て)
…そうそう、ワタシ、今日、欲しいケータイの新機種を予約してたんだった……
この近くに予約しておいたお店があるから、今から寄るよ」
ベジータ「…ン、それは丁度いいぜ…、オレもハルとの通信・連絡用に、そのケータイという通信機器が
一つ欲しかったところさ、思ったより、この星に長居することになるかもしれんからな……
ココの星の機器を買った方がいろいろ手っ取り早い、
この星の通信レベルは、宇宙ではシステムが量子通信でないから無意味だが、地表で使う分には、
十分に高いレベルだしな…」
ハル 「……は?…なに、小難しいこと言ってんのよ?
ところで、ベジータさんて、お金は持ってんのォ〜?」
ベジータ「…いや、この星の貨幣は持ち合わせてはいないさ、
だが、その代わりに、およそこの宇宙で通用する、ある金属を小さな塊に小分けして所持している…、
(カプセル→ボンッ→小ケース→そこから小さな塊を一つ取り出す)
これさ……」(約100gの金の小さな塊)
ハル 「ワァ〜!!……これって、金……よね〜!!」
ベジータ「ああ…、
この宇宙の知的生命体の、共通する富の価値ってのは、やはり、この黄金色の煌めきのようだな」
(金の塊を手渡し)
ベジータ「これで、いくらかにはなる…、ケータイを買うには十分だろ?
これで、プリペイド式のケータイってやつは買えるだろう…、
余りはハルにくれてやるよ、序でに、質屋にでも行ってこの星の貨幣と交換してきてくれないか」
ハル 「それなら、近くに質屋もあるから大丈夫よ、
……それにしても、ベジータさんて太っ腹なのね〜、
余りはお小遣いとして遠慮なく貰っちゃうわよ、
も〜、こんな調子なら、ずっと地球(クラリオン)に滞在してくれてていいわよ〜」
ベジータ「…フンッ、調子のいいこった……、
まぁ、これはオレが無理矢理ハルのところに押し掛けてる意味も含めての、
いわば、迷惑料込みっていうやつだ…
今から、そのケータイっていう通信装置を購入するんだが、
それもいろいろ手続きが面倒だろうから、ハルに代わりに記入してもらうわけだしな…」
ベジータ「…この短い詩を思い出す度に…、オレは自らの血肉が静かに沸騰していくのを感じるんだ……、
そして、オレは実感する…、
やはりオレの中に流れている血は…、どうしようもなく、戦闘民族・サイヤ人のものなのだと………
…そんなサイヤ人の血が勝手に騒ぐのか…、オレには民族再興の思いなどこれっぽっちもないんだが、
結局はこうして、民族の王であった父や仲間と同じように、あのフリーザを裏切り、
敵に回し追われてるんだから、血は争えん………
粗暴だが誇り高く、人に命令されるのが大嫌いなのが、戦闘民族・サイヤ人の性分なんだろう……、フフフッ…」
ハル 「……………、
…でも…、ベジータさんて民族の王子なのよね〜……、ホントに…そんな感じでいいのかなぁ……?」
ベジータ「フフッ…、それは心配には及びない…、オレ達サイヤ人は、実際、個人主義の固まりだからだ、
たとえ王子だろうが王だろうが、その地位自体には何ら特別な意味はない、
まずその前に、純粋に一人の戦士でなくてはならないのだ……
勿論、サイヤ人にも民族としての意識はなくはないんだが、思想の根底に常にあるのは
「皆が一人一人、一戦士であれ」というようなものだ、その意識は相当強い…、
だから、民族云々の前に、まず一人の戦士として戦えなければ、仲間からも認められないんだ…、
それが生粋の戦士の群れ、戦闘民族サイヤ人の哲学さ………
そういう考え方だから、自然、個人主義の風潮が強まる…、民族としての意識は二の次さ……
……フリーザに逆らおうとしたのも、要は、サイヤ人にとって居心地が悪かったっていうだけの話なんだ…、
サイヤ人ってやつは好戦的な種族だとは思うが、年がら年中戦うほど勤勉というか…、
根が真面目な種族ではないんでな…、好きな時に戦い、戦いたくない時には一切戦いたくないんだ…」
ハル 「……な、なんか映画で見た…カリブの海賊!?……あんな感じ、なのかな…?」
ベジータ「フハッ、そうだ…、オレ達は海賊みたいなもんだ…、いや、もうちょっとマシだったかな…?
…民族ごと海賊行為をしていたって云われれば、確かにそんな時期もあった…、
ただもうちょっとマシな事もやってきただろう…、傭兵稼業として金額の多寡だけを判断基準に
やってきたんだ、物事は全て需要があるから供給があるんだぜ…?
………思えばオレは、既にガキの頃から、そんな…サイヤ人の一戦士としての人生が始まっていたんだ…、
思い出してもゾッとするぜ…、
幼心(おさなごころ)に覚えてるのは、いつも目を烈火の如く燃やし、オレを怒鳴りつけ叱りつける父親の姿…、
その傍らの母親はその様を喜んでやがるんだからな……、
記憶の片隅に残っていることといえば、親自ら嬉々として率先し年中組まれていた徹底したスパルタ指導、
武芸の鍛錬や組み手の日々……、
戦闘民族サイヤ人の、しかも、その王子としての地獄の日々がもう始まっていたんだ……
オレ達サイヤ人はまず、文字を習う前に、この世の真理を体に徹底的に覚え込まされる…、
それは、「この世はただ強き者が支配している」という、ある意味とても単純な掟だ…、
それを殴られ蹴られ、ヘドを吐くような思いで、骨に、肌に染みるくらい幼少の頃から思い知らされてきた…、
幼いオレがぶたれ泣き喚いても、誰もオレに救いの手を差し伸べる者などいなかったぜ…、
尤もそんな時期は、オレがせいぜい文字を覚える頃までの、ほんのわずかな時間の話だがなぁ……」
ハル 「…酷い話よね〜、地球(クラリオン)じゃ〜、まず考えられない話だも〜ん」
ベジータ「それで、幼くして死んでも、所詮はそれまでの器だ…、それがサイヤ人の徹底した哲学だからな…、
王子でも戦士として弱ければ、全く容赦はされないんだぜ…、
…だが、オレはその日々のことを恨んだりはしちゃいないぜ…、冷酷ではあってもこの世の真実……、
今となっては、むしろ感謝しているくらいだ……、
おかげでオレは、ガキの頃にはもう…自他共に認めるサイヤ人のエリート戦士になっていたんだからなぁ……」